Interview|Ingo Maurer

Ingo-MaurerArtcurial

光の詩人が語る、光との出会い。

「光の詩人」の異名をもつ照明デザインの巨匠、インゴ・マウラー。グラフィックデザインを学んだのち照明デザインの道へ進んだインゴ・マウラーは、電球の形をしたランプ《Bulb》(1966)を発表し一躍注目を浴びました。

天使のような翼がはえた《ルーチェリーノ》(1992)や、日本の文化にインスピレーションを得て作られた和紙のランプシェードの作品などご存知の方も多いでしょう。

「身近な材料から、いかに機能をもった美を生み出すか」それがインゴ・マウラーの長年追求してきたテーマのひとつです。照明器具のデザインにとどまらず、光の本質を引き出すような独創的なアイデアから生まれる作品は、デザインとアートの融合といえるでしょう。

インゴ・マウラーが創り出す光はポエティックで遊び心にあふれています。

そんな彼の代表作《ルーチェリーノ》が時代の要請に応え、LEDモデルとしてリニューアルしました。

白熱電球の愛らしいフォルム、暖かみのある光の質、調光時の光色の移り変わりなど、白熱電球の特徴を完全に再現できるLED光源として「TRI-R」が採用されました。

半世紀を光と向き合ってきたインゴ・マウラーへ、光との出会い、そして光の魅力について伺いました。

 

作品はもちろん、「光」の捉え方においても常に私たちに刺激を与え続けてきましたが、
半世紀もの間、あなたを虜にする「光」には、どの様な魅力や力があるのでしょう?

私たちの周りの光は、私たちの幸福や、様々なモノの見え方、感じ方に非常に大きな影響力を持ちます。
しかし、少なくとも私が光の仕事を始めたころには、多くの人は光の重要性をわかっていませんでした。

例えそれが個人の家でも、公共の場であったとしても、照明が作り出す効果によって人々の生活をより良くでき、人々をより幸せにする力があるのだと私は確信しています。

これが、私が光の仕事を楽しむ理由の一つです。

 

 

Bulb_kaiserstr

これまで数多くの作品を作ってこられましたが、照明をデザインするときに、「光」はあなたにとってどのような存在なのでしょうか?

私が照明器具のデザインを始めたころは、白熱電球の形状そのものからデザインの着想を得ていました。

最初のデザインである《Bulb》は、まさに大きな電球のようでした。
長年に渡り、私は数多くの照明器具を作り出すなかで、それらの印象や存在についてずっと考えてきました。

「光」とは、私にとって未知の大陸のようなものです。
海岸からゆっくりと内陸の未開の地に向かって探検を続けていて、時折りとても美しい場所を発見することがあります。
その美しい場所を、見たことのない人々に教えたくなるような…

 

 

最も記憶に残ったり、感動した「光」の体験を教えて下さい。

人生で、そのような経験は多くありました。どこか初めての場所に行ったとき、しばしば日光にハッとしました。
そのほか、ニューヨークや東京、香港といった都市の照明にも驚きました。

日本では、障子のある部屋の光に深く感銘を受けました。
和紙を通した光は、これまで知らなかった特別な方法のように、とても柔らかく、穏やかな光へと変わりました。
この体験が、私の全ての紙製ランプのデザインの原点です。

 

 

2009年、ユーロルーチェでの白熱電球廃止に対するプレゼンテーションが大変注目されましたが、あなたにとって白熱の光はどのような存在でしょうか?
また、白熱の光が私たちにもたらしてくれるものは、何だとお考えですか?

白熱電球は特別なものです。なぜなら、そのフィラメントが火を思い起こさせるからです。
火は自然の光源ですが、人間は古代からそれを利用し制御しています。その暖かさにより、私たちは安心します。

今まで、LED照明や蛍光電球から発せられる光は、白熱の光と同じ雰囲気を作り出すことに成功していません。
色々な種類のパンを食べたり、エネルギー消費量の異なる様々な車に乗ったりするのと全く同じように、私たちはそれぞれ質の異なる様々な光源を使い分ける余地があるべきだと考えています。

2009年のユーロルーチェでのプレゼンテーションには、EUの方針に疑問を投げかける意味もありました。
EUの行った白熱電球の規制は、十分な研究に基づいていないと考えます。当時、白熱電球の代わりに推奨されていた蛍光電球は、とても満足できない質の光のためヨーロッパの大部分で不人気でしたし、水銀を含んでいるため安全とはいえない電球でした。 

 

 

My-New-Flame近年、白熱電球はLEDに置き換わりつつあります。
今後の光に求めるものは何だとお考えですか?
そして、光はどうあるべきでしょうか?

現在ではLEDの品質がとても良くなったため、多くの場合、白熱電球やハロゲン電球を高品質なLEDで置き換えることは、現実的で推奨されることです。

しかし、ここで重要なのは、LEDの光が「高品質」であることです。

LEDの発色 (演色性) に注意をはらい、品質の高いものを選択しなければなりません。また、家庭用では光の色 (色温度) は高すぎてはいけません。夕方に点されるランプはなおさらです。

今後、様々な場面で白熱電球がLEDに置き換えられても、私は人々の光についての感じ方は、本質的には変化しないと思います。

もちろん、現在では多くのLEDメーカーも、人々が光に感性を求めることを、以前よりは意識されてきていますが。

 

 

これからの創作で使用したい、あるいは興味を持っている光源や技術がありましたら教えて下さい。

過去十年間、あるいはもっと長い期間かもしれませんが、あらゆる新技術、LED、OLEDを試し、仕事で使ってきました。一方で、白熱電球、ハロゲン電球、ネオン・チューブなど古い技術も使ってきました。

現在のところは、フィラメントの赤い輝きや自然の火に引き戻されている気がします。

しかし、明日、あるエンジニアがやって来て、私に何か新しいものを見せて、私が瞬く間に魅了されて、私の心がアイデアを生み出し始めるということも十分ありえます。

 

 

もし、ある時代や地域、季節や天候など特定の光を再現できるとしたら、どんな光を再現してみたいと考えますか?

おそらく最初の数時間だけでしょうが、複製できるとしたら間違いなくとても興味深いことでしょう。

再現してみたいのは、都市や風景が電気の光で満たされるようになる前の時代の夜空です。暗闇や影は、「照明」の重要な一部分です。画一的で普及した照明は、全く面白くありません。

 

 

「lucellino LED」がいよいよデビューとなりますが、今回搭載した「TRI-R」についてご意見を下さい。

TRI-R電球の光には、まだ驚いています。なめらかに暗くなり、光量を上げると明るくなり、暗くなるときには、電球の中心の明るい点が美しい赤い色味に変わります。

エンジニアに会ってプロトタイプを見せてもらうまでは、私は常に疑っていたのですが、素晴らしい功績だと思います。
ブラボー!

  Lucellino_LED_dark

 

 

インゴ・マウラー略歴

1932ドイツ、コンスタン湖(ボーデン湖)湖畔のライヘナウで生まれる
1954ミュンヘンでグラフィック・デザインを学ぶ。タイポグラファーとしてドイツとスイスで修行を積む
1966ミュンヘンにスタジオ〈デザインM〉設立、初めての作品《バルブ(Bulb)》を発表
1984使い方に応じて、ハロゲンランプやワイヤー等のパーツを自由に構成できる照明システム
《ヤ・ヤ・ホ(YaYaHo)》発表
1989ソ連(現ロシア)のデザイナー協会の招聘により、レニングラード(現サンクト・ペテルブルク)の民族博物館で展覧会を開催
1992《ルーチェリーノ(Lucellino)》を発表
1997《エジソン、あなたはどこ?(Where are you ,Edison,…?)》、《ツェッツル(Zetel’z)》を発表
1997初めてLED(発光ダイオード)を使ったテーブルランプ、《ベリッシマ・ブルッタ(La Bellisisima Brutta)》を発表 ドイツの雑誌「アークテクトゥア・ウント・ヴォーネン(建築と住宅)」より「デザイナー・オブ・ザ・イヤー1997」に選ばれる。
1998照明シリーズ《マーモ・ノウチェス(MaMo Nouchies)》を発表
ミュンヘン地下鉄ヴェストフリートホフ駅のインスタレーションを手がける
1999ニューヨークでショールーム兼店舗を開設し、ミュンヘン市よりデザイン賞を受賞。
イッセイミヤケのファッションショー(パリ、ラ・ヴィレット)の照明インスタレーション、同じくロンドンのショールームの照明を手がける
2000レイモンド・ローウィ・ファウンデーションより「ラッキー・ストライク・デザイナー・アワード2000」受賞
2001バルセロナ市より「プリマヴェラ・デル・デッセニ(デザインの春)2000賞」を受賞
2002「Collab's Design Excellence Award」(フィラデルフィア美術館)受賞
2003コペンハーゲンでジョージ・ジェンセン(ゲオルグ・イェンセン)賞2002を受賞
岐阜県のデザイン・アカデミー(岐阜県産業文化振興事業団)より第4回織部賞を受賞
2005英国王立芸術協会(ロンドン)より、Royal Designer of Industry(RDI)を受賞
2006ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)の名誉博士を授与
2010ドイツ・デザイン賞(Design Award of the Federal Republic of Germany)を受賞
2011イタリアの工業デザイン賞コンパソ・ドーロ(黄金の羅針盤賞)を受賞